「名古屋=トヨタの街」「愛知=製造業」という説明は、県単位の産業構造には当てはまっても、名古屋市という都市単体を語るには不十分ではないかと思い、今回の記事作成に至りました。
政府統計を都市スケールで読み解くと、名古屋市は別の顔を見せる。本稿では、令和3年経済センサス‐活動調査(総務省・経済産業省)の確定値(産業構造)と、令和8年1月1日現在の名古屋市オープンデータ(人口動態・超速報値)という2つの公的統計に基づく分析から得られた
- 名古屋市の産業構造の変化
- 人口動態が示す都市の方向性
- そこから読み取れる市場の可能性
『名古屋=トヨタ』というイメージ、実はデータで見ると面白い発見があるんです。今回は最新の統計を使って、名古屋の『意外な素顔』を皆さんと一緒に紐解いてみたいと思います。
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本稿の論点
- 産業構造:名古屋市の雇用を支えるトップ産業は製造業ではない
- 分析レイヤー:県単位と市単位では見える構造が異なる
- 人口動態:都心回帰のコアエリア波及とジェントリフィケーション(都市の高度化)
- 区別データ:人口推移・産業構成の区単位分析の意義
- 市場の空白:ジェントリフィケーションに伴う需要の高度化と供給の立ち遅れ
- 英語表現:分析結果を説明する際のチャンク
結論:愛知県は製造業が強い一方、名古屋市に限れば雇用・人口動態の双方がサービス産業を核とした都市構造への再編を示しており、都心・コアエリアではジェントリフィケーションに伴う需要の高度化と、それに応じた供給の遅れ(市場の空白)が並存しています。
データが明かす事実|名古屋市の産業構造
本節の産業分析は、令和3年経済センサス‐活動調査(総務省・経済産業省)に基づきます。同調査は事業所・企業の実態を把握する公的統計であり、名古屋市の産業別従業者数について最新の確定値として信頼性が高い。以下はこの確定値に基づいています。
名古屋市の産業別従業者数で最大の雇用を抱えるのは製造業ではない。経済センサス確定値から得られた上位4産業の従業者数と構成比は次のとおりです。
- Rank 1:医療・福祉 約18万人(構成比29.5%)
- Rank 2:卸売業 約16万人(構成比26.2%)
- Rank 3:小売業 約15万人(構成比24.6%)
- Rank 4:製造業 約12万人(構成比19.7%)

グラフから読み取れるのは、医療・福祉が製造業を6万人(構成比で9.8ポイント)上回っているという事実です。主要4産業の合計約61万人のうち、サービス系(医療・福祉・卸売・小売)が49万人(80.3%)を占め、製造業は19.7%にとどまります。この構成比は、東京23区や大阪市と比較しても、名古屋市のサービス依存度が高いことを示します。
注意すべきは、製造業の衰退を論じているのではない点だ。従業者数と製造品出荷額は別指標であり、後者で見れば製造業は依然として大きい。ここで論じているのは雇用構成である。名古屋市を生活圏・消費圏として捉えると、製造拠点というより医療・商業・流通を担うサービスハブとしての性格が強い。
区別の産業構成は、国勢調査(e-Stat)の「従業地による産業別就業者数」(21大都市の区別集計)で検証できます。中区は商業・サービス業の比重が高く、港区は製造業の割合が相対的に高いなど、区ごとの産業シェアは立地・商圏分析の前提となります。
人口データが示す都心回帰とジェントリフィケーション

本節の人口動態は、令和8年1月1日現在の名古屋市オープンデータ(毎月1日現在の世帯数・人口、区別)に基づいています。同データは住民基本台帳の異動を反映した超速報値であり、現在進行形の事実を示します。
産業構造のサービス化は居住地選択にも表れている。区別人口の動きは、都心回帰が都心核だけでなくコアエリア一帯へ波及していることを示します。
都心に隣接する瑞穂区(+54人、前月比+0.05%)、中村区(+51人、前月比+0.04%)で人口増が続き、守山区(+39人、+0.02%)、天白区(+29人、+0.02%)も微増。一方、港区(-145人、-0.10%)、千種区(-95人、-0.06%)、中区・昭和区(各-98人、各-0.09%)では減少が目立ちます。
単月変動はあるものの、居住の重心が中区一極ではなく、瑞穂区・中村区などのコアエリアへ広がりつつあると解釈できます。職住近接や移動時間短縮を選好するサービス業・専門職層の流入が、郊外から都心・コアエリアへの人口の再配置を押し進めています。

この動きはジェントリフィケーション(都市の高度化)の文脈で読むと、その先の市場像が見えやすい。購買力・サービス需要の高い層が集まるほど、外食・カフェ・体験型エンターテインメントなどへの需要の質が上がる。一方で、名古屋ではそれに応える供給が東京・大阪に比べて限定的であり、需要の高度化に供給が追いついていない状態が生まれている。
市場に残された空白|需要に供給が追いついていない領域
ジェントリフィケーションに伴う需要の高度化は、名古屋の商業環境に供給の空白として表れている。
- グローバルな外食・カフェブランド
- 体験型・高付加価値のエンターテインメント施設
といった分野の供給は、東京・大阪と比べて相対的に少ない。これは単なる遅れではなく、需要はすでに形成されつつあるが供給が立ち遅れている状態と捉えられる。都心・コアエリアに集まる層の消費性向は慎重だが、一度価値が認知されれば需要が集中する傾向がある。ジェントリフィケーションが生む需要の質的変化と、それに応じた供給の立ち上がりのタイミングが、今後の市場形成の分岐点となる。
Q. 「でも、愛知県全体で見ればやっぱり製造業が最強じゃないの?」
A. その通りです!でも、実は「県」と「市」では見ているレイヤー(階層)が違います。
もちろん、愛知県全体で見れば製造業の圧倒的なパワーは疑いようがありません。 でも、私たちが日々暮らし、買い物をする「名古屋市」という狭いエリアにズームしてみると、そこには「モノを作る現場」というより「サービスを届ける中枢」としての顔が浮かび上がってきます。
どちらかが間違っているのではなく、「工場の愛知」の中に「サービスハブの名古屋」がある。この視点の違いこそが、名古屋市場の「空白」を見つけるヒントになるんです。

英語チャンク集|データで事実を説明するときの表現
分析結果を英語で説明する際にそのまま使える表現を紹介します
Contrary to popular belief, …
- Contrary to popular belief, Nagoya’s top industry is not manufacturing, but healthcare.
(一般に思われていることとは違い、名古屋市の最大産業は製造業ではなく医療・福祉です)
Urban re-centralization
- The data clearly shows a trend of urban re-centralization in Nagoya.
(データは、名古屋で都心回帰の傾向が進んでいることを示しています)
Spread to the core area
- The re-centralization is not limited to the central business district; it is spreading to the surrounding core areas such as Mizuho and Nakamura wards.
(都心回帰は中心業務地区だけでなく、瑞穂区や中村区などのコアエリアにも広がっています)
Gentrification and market gap
- Gentrification in the core areas is driving demand for higher-end services, but supply has not yet caught up—creating a clear market gap.
(コアエリアでのジェントリフィケーションが高付加価値サービスへの需要を押し上げている一方で、供給が追いつかず、市場の空白が生じています)
Account for a large share of …
- Healthcare and retail account for a large share of employment in the city.
(医療・福祉と小売業が、市内雇用の大きな割合を占めています)
Percentage point difference
- Healthcare accounts for 29.5% of employment, 9.8 percentage points higher than manufacturing (19.7%).
(医療・福祉は雇用の29.5%を占め、製造業(19.7%)より9.8ポイント高い)
Untapped market
- There is an untapped market for lifestyle and luxury services in the city center.
(都心部には、ライフスタイル型・高級志向サービスの未開拓市場があります)
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まとめ
データが示すのは、名古屋市が工場の街ではなく、サービス産業を核とし、都心・コアエリアへ人口が再配置されつつある都市であるという姿だ。その過程で、ジェントリフィケーションに伴う需要の高度化と、それに応じた供給の立ち遅れ(市場の空白)が並存している。都市開発・商業戦略を考えるうえでは、市単位の雇用・人口動態を区別まで分解し、都心回帰とジェントリフィケーションを需要の質的変化として捉えることが有効である。
Data Source & Methodology
本稿は、次の2つの公的統計と、それらに対するPythonによる集計・検証を組み合わせた分析に基づきます。
(1)産業構造(第1章)
出典は令和3年経済センサス‐活動調査(総務省・経済産業省)である。事業所・企業の従業者数等を把握する公的調査の確定値であり、名古屋市の産業別従業者数について、現時点で利用可能な最新の確定値として採用した。構成比・他産業との比較は当該確定値から算出している。
(2)人口動態(第2章)
出典は令和8年1月1日現在の名古屋市オープンデータ(毎月1日現在の世帯数と人口、全市・区別)である。国勢調査結果を基礎とし、住民基本台帳人口の異動を加減して推計された月次公表データであり、速報性の高い超速報値として扱った。本稿では、これを予測ではなく、当該時点で公表されている事実として記述している。区別人口サマリーおよび前月比増減・増減率は、当該オープンデータをPythonにより集計・検証した。
分析の位置づけ
産業構造については経済センサス確定値による信頼性の高い断面を、人口動態については名古屋市オープンデータによる時点の新しい事実をそれぞれ用い、両者を組み合わせることで、名古屋市の雇用・居住の動きを一体的に論じている。解釈および他都市との比較は執筆者によるものであり、公的機関の見解を示すものではない。
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