―― 効率化に疲れた現代人が行き着く、新しい「手応え」の作り方
Pythonを書いて、3時間かかる仕事を1秒に縮めたこともある。 英語アプリを使い、効率よく学習を進めてきた自負もある。
けれど、そうやって効率を極め、あらゆる摩擦を消し去った私の手元に残ったのは、圧倒的な「虚無感」でした。
効率を極め、あらゆる摩擦を消し去った私の手元に残ったのは、圧倒的な「虚無感」でした。
画面の中の数字は増えていく。けれど、自分の頭には何も残っていない。 指先一つで最短距離の答えにたどり着けるはずなのに、「自分で乗り越えた」という手応えだけが、指の間からこぼれ落ちていく感覚。
この、なめらかな坂道を滑り落ちるような毎日に、あえて「砂」を撒く。
それが、今海外のSNSや記事で注目されているトレンド、
「friction maxxing(フリクション・マキシング)」です。
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「摩擦ゼロ」という、心地よい病
今の時代が目指してきたのは、「frictionless(摩擦ゼロ)」な世界です。
支払いは顔認証、移動はナビ任せ、動画もアルゴリズムが選んでくれる。
失敗もしない代わりに、心も動かない。
「全部ラクだけど、手に入れた実感がない(Everything is easy, but nothing feels earned.)」
この「手応えのなさ」に、多くの人がうっすらと危機感を覚え始めています。 タイパを追い求めて浮かせた時間で、私たちは結局、どうでもいい動画を眺めて一日を終えていないでしょうか。
「便利さ」を減らし、「経験」を濃くする
この行き詰まった便利さへのカウンターとして生まれたのが、friction maxxing です。
考え方は至ってシンプル。 「便利さを減らして、経験を濃くする」
あえて、面倒な道を選ぶ。 あえて、不便なやり方に戻る。
語源となった「maxxing」は、何かを限界まで突き詰めるというネットスラング(looksmaxxingなど)から来ています。少し過激な響きがありますが、それくらい意図的に動かないと、私たちの生活からは「手触り」が消えてしまうのです。

学習における「摩擦」は、脳への退職勧告を防ぐ
特に、私が一番「摩擦」が必要だと感じているのが、英語学習です。
日常の便利さは「時短」になりますが、学習の便利さは、ときに脳への「退職勧告」になります。 考えなくても進める学習。迷わなくても答えが出るアプリ。 それは気持ちはいいけれど、脳が「あ、俺もう働かなくていいんだな」と判断して、シャッターを下ろしてしまう。
心理学には 「Desirable Difficulty(望ましい困難)」 という言葉があります。 皮肉なことに、脳は「少し苦労して、立ち止まった情報」しか、自分のものとして定着させてくれません。
- 摩擦ゼロ: AIの翻訳をコピペして、分かった気になる。
- 摩擦アリ: 「なぜこの前置詞なのか?」とAIに問い続け、納得するまでプロンプトを打ち直す。
前者は1秒で終わりますが、脳は1ミリも動いていません。 後者は面倒ですが、確実に自分の血肉になります。
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摩擦のない道には、足跡すら残らない
私は最近、あえて英語学習アプリを片手に、ノートに手書きすることにしました。 サクサク単語が出てくるはずなのに、効率はよくないです。
でも、ペンが紙に引っかかる感触、文字のバランスを考える時間。 その「あえてスピードを落とすこと」が、ツルツルに滑っていた私の脳に、深い溝を刻んでくれます。
効率化を突き詰めてきた自分が、一杯のコーヒーを淹れるためにあえて手を動かす。「時短」を捨てて、あえて「手触り」を取りに行く。一見、遠回りに見えるこの選択が、結果として一番深い納得感を生んでいます。
最後に
今のまま「摩擦ゼロ」の学習を続けても、一年後の自分は、今日と同じ場所に立っているかもしれません。 なぜなら、摩擦のない道には、足跡すら残らないからです。
明日から、楽すぎる選択を一つだけ、外してみませんか? メモを手書きする。 一駅分、ナビを見ずに歩いてみる。 一文の英語に「なぜ?」と向き合ってみる。
その小さな摩擦が、あなたの学びに確かな輪郭を与えてくれるはずです。
結局、自分の頭と手を動かして手に入れたものしか、最後には残らないのだと思います。
“What sticks is what you worked for.” あえて摩擦のある道を選んだ先に、あなただけの確かな手応えがあることを願っています。
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